小説
故人は時に生誕を言祝ぐ
 墓地から城下へ繋がる道は、身の丈ほどの壁に囲まれた通りになっている。
 壁の向こうが住宅街になっているから、墓地へ行く者や帰る者の事を配慮した造りにしているらしい。

 リーファは直接城の自室へ戻っても良かったのだが、アランが『戻る途中で私に何かあったらどうする』と言うので、アランと一緒に馬に騎乗していた。
 さすがに城内には入れないから、城下の適当な所で消えるつもりだ。

 城下に入る前になって、リーファのグリムリーパーの体がより鮮明に人の姿を形作る。
 体から光は失せ、鎧や羽飾りがより質感を帯びるようになる。

「…器用だな」
「細かく具現するのに、ちょっと気力が要るんですけどね。
 体型は難しいですけど、服や鎧は好みで色んな格好が出来ますよ」
「この香りもか」
「香り?」
「髪から、ほのかに花のような香りがする」

 そう言うと、頭一つ分背の高いアランが、リーファの頭に顔を埋める。
 もさもさと髪に触れられて、何だかくすぐったい。リーファの鞍を持つ手に力が入る。

「さ、さあ、どうなんでしょうか。意識してつけた事はないですけど。
 体臭?じゃなくて、魂臭、みたいなものなんでしょうか」
「私が知るか」

 つっけんどんに言葉を返してくるが、アランは髪に触れるのをやめる気はないようだ。

(…えっと…これは…もしかして…)

 リーファの脳裏に一つの可能性がよぎる。
 リーファも常々思っていた事だし、アランも同じように考えていてもおかしくはない。

「で、ですよね───あ、ほら、陛下。ここです」

 馬を歩かせていくと、華やかな城下の大通りの中で一層煌びやかな建物が視界に入る。

 宝石屋だ。高級感のある佇まいの店舗の中には、大小さまざまな宝石がショーケースに並べられている。店仕舞い間近なのか、店員が外の立て看板を片付け始めていた。

 アランも宝石屋をちらりと見て、白々しく目を逸らした。

「…何の事だったか」
「しらばっくれないで下さい。さっき宝石買ってくれるって言ったじゃないですか」
「ゲームに勝てたらな。お前は負けたではないか」
「その後ちゃんと、罰ゲーム受けるなら買ってくれるって言いましたよ?」

 リーファは体を捻ってアランを見上げた。
 上目遣いで首を傾げ、試すように、揶揄うように問いかける。

「…王様なのに嘘つくんですか?」

 見上げた先のアランはいつもと変わらず無表情のままだったが、手綱を操り前進を続けていた馬の脚を止める。

「…嘘などついていない。忘れていただけだ」
「じゃあ買って下さい。
 ほら、エルヴィーンさんも言ってたじゃないですか。好きな物を与えなさいって」

 リーファが愛想よく笑うと、アランは一方の口の端をつり上げもう一方の口の端を下げるという何とも複雑な表情をした。困惑しているのが良く分かる。
 そしてしばらく墓地の方を眺め───諦めがついたのだろうか。嫌々、という感じで頭を掻いた。

「………いいだろう。だが、帰ったら即罰ゲームだ。いいな?」
「はい」
「罰ゲームの内容を考えておいてやる。考え終わるまでに戻って来い」

 そう言って、アランは胸につけていた金色のバッジを外してリーファに手渡した。
 左右に獅子と馬を配し、中央に王冠、王冠の側に二本の剣が並べられたラッフレナンドの国章だ。

 リーファはそれを眺めて小首を傾げたが、アランが顎で『店へ行け』と訴えるので、馬を降りて店に入って行った。