小説
それは罰と呼ぶには程遠く
 ───結局。
 ハドリーに言われるまま数日待ち続けていたら、一通の手紙がラッフレナンド城のアルフォンス=セニョボス神父に届けられた。

 言わずもがなハドリーからの手紙で、このように書かれていたという。

『敬愛するセニョボス神父。突然の手紙をどうぞお許し下さい。
 ビザロで発生していた怪異について、是非お知恵を貸して欲しいのです。

 先日ひとりの呪術師が懺悔に訪れ、ビザロで起こっている怪異について話してくれました。
 彼はオルコット辺境伯の令嬢から呪術についての相談を受け、術の補助に使う呪具を売却しました。
 しかしその呪具に、呪術の力を増幅する効果が付与されていた事に後から気が付いたそうです。

 呪具の不具合に気が付いた時、既に町には怪異の噂が広がっており、他愛ない悪戯で済まされていたはずの呪いで、死者が出たとも聞かされて。
 自責の念に苛まれ教会に訪れた、と言っていました。

 彼は自らの意思で自警団に自首し、今檻の中で沙汰を待つ身ではありますが、なにぶん初めての事でデルプフェルト伯爵も決めかねています。

 彼をどのように救うべきか、わたしに何が出来るのか、お教え下さい。

 ───追伸。

 これ以上の被害を防ぐ為、タールクヴィスト男爵家地下に形成されていた呪術の陣はこちらで解呪してあります。
 陣の構成について、別紙に書き記しました。参考までに。

 ハドリー=グレンフェル』

 真相を知っているリーファからすれば、腑に落ちない点は幾つかあった。
 呪術師が成そうとしていたラッフレナンド侵攻は、特に看過出来ない問題ではないかと思ったのだ。

 しかし移動方陣の移動先が国外で、外交問題に発展しかねない厄介な話になってしまう事や、移動方陣が消滅した事でその話を証明出来なくなった事もあり、『あえてシナリオから外したのでは?』とヘルムートは分析していた。

 ◇◇◇

 ───そして。

 呪術を行いラッフレナンド王家を害そうとした、ウッラ=ブリット=タールクヴィスト、エイミー=オルコット、アドリエンヌ=ルフェーヴルは、東の国シュテルベントにある修道院へ行く事が決まった。事実上の国外追放となる。

 タールクヴィスト男爵は、呪術を認知しながらも止めなかったとして、罰金五万オーロの支払いと、爵位と領地の剥奪が決まった。
 親戚であるデルプフェルト家からも絶縁宣言をされてビザロに居づらくなってしまったらしく、近いうちに妻の故郷へ引っ越すつもりでいるようだ。

 直接の関与はなかったものの、オルコット辺境伯夫妻、ルフェーヴル町長夫妻も訓告処分を受ける事となった。
 特にオルコット辺境伯は呪術師と接点があった為、当面魔術師との交流を禁止するよう通達が出たようだ。

 そして、怪異の中心人物とも言える呪術師シュタイン=ヴァイゼンは、罰金として三千オーロの支払いの後、故郷のリタルダンドへ強制送還される事となった。
 供述内容に不備はなく、意図的に行われたものではないと判断されての事だ。

 だがヘルムートは、『彼が故郷の土を踏む事はないよ』と断言した。
 何でもヘルムートが抱えている私兵の中には、暗殺を得意としている者が何人かいるらしい。
 要するに、そういう事なのだろう。