小説
対なる者との邂逅
 魔王の力で謁見の間へと戻ってきたリャナは、同じくついてきたエセルバートとリーファに深々と頭を下げた。
「今日はうちの事でありがとう。エセルバートさん、リーファさん」
「こちらこそ、どうも」
「あまりお役に立てませんで、すみませんでした。リャナ」
「ううん。分かった事も色々あったからいいの。目標も出来たし」
「そうですか?それならいいんですけど。
 …私達の家がラッフレナンド城下に入ってすぐの所にあるんです。
 お暇があれば是非遊びに来て下さいね。お菓子たくさん作って歓迎しますよ」
 お菓子という単語に、リーファの目がキラキラと輝いた。喰い気味にリーファに詰め寄る。
「本当?リーファさんお料理作るのとか得意?」
「人並みに、ですけどね」
「じゃあお料理勉強しに、今度お邪魔してもいい?いい?」
「どうぞどうぞ。楽しみに待ってますね」
 食いつきの良さに嬉しそうに笑って、リーファが小指を差し出した。リャナも合わせて小指を差し出し、指切りをする。
 そんな2人を横目で見て、エセルバートは魔王に声をかける。
「それでは魔王陛下。我々はこれで」
「うむ。息災でな」
「はい。失礼します」
 リーファも頭を下げて、彼らは謁見の間を出て行った。予期せぬ来客を見送って、謁見の間の扉が重々しい音を立てて閉じられる。
 魔王は玉座に腰をかけて、当たり前のように魔王の膝に座ったリャナの頭を撫でた。
「今日は新しい友が出来て良かったな。リャナ」
「うんっ。それに、目標も出来たし」
「…目標とは?」
 魔王が不思議そうにリャナの顔を覗き込むと、彼女は鼻息を荒くして口を開いた。
「うんっ。村を襲ったやつらって、よく分かんないけどすっごく強いんだよね?だから、あたしまずは魔王城で一番強い戦士になるの!」
「ん?リ…リャナ?」
 訝しがる魔王をさておいて、リャナの熱弁は続く。
「そいつらがパパより強いかは分かんないけど、でも魔王のパパは世界で一番強いんだから、パパを倒せるようになればそいつらにも多分勝てるよね?
 犯人が魔物ならパパ倒してもいいんだし…うーんと、一斤2コイン、だっけ?」
「もしかしなくても、一石二鳥かな…?い、いや、そうではなくてだな」
「そうそうそれそれ。つまりはそういう事になって、すっご〜くオトクだよね?」
「う、うん。そうだな。オトクだな」
「そういう訳だから、早速今日からがんばることにするのっ。打倒パパ!打倒カタキ!えいえいおー♪
 って事で、あたし、今から訓練場行ってくるね!」
「あ、ああ。行ってくるといい」
「は〜い♪」
 満面の笑みを浮かべて魔王の膝から降りたリャナは、スキップしながら謁見の間を出て行った。扉を開けた直前、書類を持ってきたアズワにいい笑顔で挨拶をして見せて、廊下の端に消えていってしまう。
 恭しく頭を下げて傍らに到着したグレムリンに、どこか呆けた表情で魔王はぼそりと問うた。
「…アズワ」
「はい」
「あの娘から、戦いを遠ざける事は出来ぬのだろうか…?」
 謁見の間は勇者との戦いに用いられる事もあるから当然そこそこには広い。入ってきたばかりのアズワが先の会話を聞いていたとは思えないが、そんな事はお見通しとばかり、きっぱりと答えてみせた。
「何を今更。
 リャナ様のご命運は、あの日、剣を携えてここに飛び込んできた時に決まっておりましたのです」
「はあ…全く。
 ストラといい、アリシアといい、リャナといい…なんであの家族は、私の身の回りをかき回そうとするのか…」
 本当に何もないのかと、魔王は顔を手で覆って考え込んでしまった。
- End -
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